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大丈夫?

 どうひいき目に見ても妥当な道を選んだとは思えないのだが、維新の会が推した候補者を大阪市長選と大阪府知事選のダブル選挙で当選させてしまった大阪の人たち。
これからの大阪は大丈夫なのだろうかと心配している。

 大阪府知事を任期途中で辞任し、大阪市長選に立候補し当選した橋下徹知事は維新の会の組織舎であり、リーダーでもあるが、彼の政治姿勢そのものが、一面的なものごとへの理解、あるいは無理解や誤解をベースにした一方的な言動、またはなはだ乱暴で品性の感じられない攻撃的な物言いばかりが目につくからである。
 大阪府知事に就任した日から、大阪府の行政組織を「赤字の会社」、府庁舎に勤める公務員を「赤字会社の社員」と言い放ち、社長の言うことをきけない社員は去れ、とまるで公の職務内容(およびその理念)と利潤を追求する組織体の目的を混同しているかのようなとらえ方を示し、上意下達こそが正義であるかのような発言をし、二重の意味でその無理解と浅薄さ・幼稚さを露呈し続けた人である。(府知事を「社長」と見なし位置づけることが笑止であることは言うまでもない)
 そうした混同は、教育についての発言でも遺憾なく発揮され、その無理解ぶりは「教育基本条例」に如実に表れている。

 彼は、自分の考えを受け入れない人たちを「バカ」と呼び、絶えず黒か白かを迫り、強権を手に入れることで自分の思い通りにすること、そのためには体制を破壊することこそ「善と正義」を実現する道に他ならないと単純に思いこんでいるようにしか思えない。
 自分と異なる意見を持つ人間を敵対勢力とみなし、その敵対勢力を攻撃することで自己の正当性と優位性を保とうとするのは、かつての小泉首相を彷彿とさせるが、その小泉改革がどのような結果をもたらしてくれたかと言えば論ずるに値しない。当時は「何かやってくれるかも知れない」との期待を抱かせ、日本国中が熱に浮かされたように小泉首相を支持したにもかかわらず、その改革の行き着いた先が「規制緩和とそれがもたらす競争社会」であり、その結果人々の格差拡大でしかなかったことが政治不信をいっそう深刻なものにしてしまったことは記憶に新しい。
 同様の手法を持つ橋下氏を支持した大阪市民の心持ちはどのようなものなのだろうか。

 橋下氏は、元弁護士であることは私も承知している。弁護士という職にあったということは、法律について、そして権利ということに熟知し、それを守る立場にあった人であると思っていたのだが、どうやらその認識は私の誤りであったようだ。
 維新の会が発表した教育基本条例案の骨子案によると、知事(大阪市については市長)は教育委員会との協議を経て、市立小中高(府立高)が実現すべき目標を設定し、目標を実現する責務を果たさない場合は、地方教育行政法に定める罷免事由に該当するものとする、ということだ。 すなわち教育に目標管理制度を取り入れ、これを徹底させるために教育委員の罷免権を知事(大阪市については市長)に与えるということらしい。その主旨は、条例案の前文に記述された「教育行政からあまりに政治が遠ざけられ、教育に民意が十分に反映されてこなかった」ということからすると、「民の力を確実に教育行政に及ぼす」ことにあるようだ。さらに教育を政治主導で展開する、という姿勢が条例案の随所で見られることからも、教育の独立性・中立性ということについて、あまりよくご存知ないようであり、認識不足のようにも思われる。
 政治主導という考えそのものに欠落している何事かを感じざるを得ないが、それ以上に人権としての「教育を受ける権利」や「教育をする権利」を無視した考えに何よりも危うさを感じるのである。
 言うまでもないことだが、教育の中立性、独立性が重視されるのは、戦前・戦中の国や軍部のその時々の思惑で子どもの「学ぶ権利」が阻害されてしまったことへの反省に立ってのことであると同時に、教育そのものの本来あるべき姿の実現をめざしてのことである。
 こう言ってしまっては言い過ぎになるかも知れないが、教育の専門家でもない、いわば素人である政治家が教育に介入することのできる制度は、教育を受ける権利を阻害するものであるということは論を待たない。

 内田樹氏は、教育基本条例案に示された「グローバル化が進む中、常に世界の動向を注視しつつ、激化する国際競争に迅速的確に対応できる、世界標準で競争力の高い人材を育てること」という文言は、『まぎれもなく、彼らのかなり切実な「本音」である』と断じている。 平たく言えば、「金を儲けさせてくれる人間」がもっと欲しい、ということであり、あからさまに言わないまでも「世界と競争して勝ちをおさめ、金儲けのできる人間」の育成を図るのが学校教育の主たる目標であるととらえているらしいことが強く窺えるのだ。
 教育の目的は、「成熟した市民」の育成を図ることであり、それはとりもなおさず「公共の福利を自己利益よりも優先的に配慮する人間の育成」ということであり、決して自己の利益を追求・増大し得る人間の育成を意味してはいない。
 他人を蹴落として自分だけ利益を得、優位立つこと、有利になることを生きる目的とする人間で良いなら、「学び」の場としての公教育は不要である。 また、上意下達の社会で望まれるのは、自立した個人はじゃまになるだけで、できることなら「唯々諾々と権力者の言を受け容れる愚かな市民」こそ望ましいはずだ。
 つまり、どこからどう見ても橋下氏の基本的な政治姿勢は、しっかりした人間理解、社会理解に基づいたものであると思えず、確かな理念、そして熟慮に欠けた乱暴と評しても良いほどの危険なものとしか思えないのである。同じことが教育というものに関しても窺え、「勝つこと」「儲けること」のできる人間の育成が教育の目標ではないにもかかわらず、それこそが大事だとする姿勢からは、人間理解の浅薄さだけが浮き彫りになる。
 
 市民の権利について熟知し、守るべき立場にあった人間の橋下氏のこの政治姿勢は、弁護士という職業ですら自己をアピールし、自己の優位性を際だたせるための方便でしかなかったかのように思わせるに十分である。
 あるジャーナリストは、彼の名前をもじり揶揄してその政治姿勢と手法を「ハシズム(ファシズム)」と名付けたという。
 どうか大阪が、そして大阪の学校がまっとうな「学びの場」でなくなり、子どもたちが真性の学びから遠ざけられてしまうことがないように祈りたいものである。

 彼と彼が率いる維新の会が支持された背景に、既成の政党に対する市民の「期待はずれ」に起因する「政党不信」「落胆」があることは疑いようがない。
 しかし、政治のプロとしての政治家集団である既成政党が、彼らのような素人に抗しきれず、こぞって推薦した候補が落選するというに至ったこと、そればかりか選挙以後どの政党も橋下氏にすり寄っていく姿勢を見せているらしいことについては、何と言うことかと思わざるを得ない。つまりは、どの政党もその程度の政治力、政治哲学しか持っていなかったということを自ら露呈してしまったということだし、そうした人たちが日本の行く末の命運を握っていることに憤りすら感じるのである。
 政権をとった与党は、口を開けば「国民の支持を受けて政権を担ったのだ」とし、自分たちの主張は「民意を反映したもの」と強調するが、あらゆることについて負託したわけではない。とりわけ公約を無視し平然と覆すような政権を今でも支持するか、と問われて確固とした自信をもって「Yes」と答える国民がどれだけいるだろうか。
 政治家である以上、政権を担うかどうかは別として、「国民を守り、国を保つ」ということを基本的な考えとして持っていてもらいたいものであるし、議員を選ぶ国民には、知名度や人気によらず、きちんとした政治家であるかどうかを見極める透徹した目を持つことが望まれるだろう。
 そう考えてみても、国の行く末を負託できる政治家および政党がどこにもないというのは国民として悲しい限りではある。
 
 それはともかく、大阪での今回の出来事が(その懸念は十分にあるのだが)日本国中に影響が及ばないことを願いたいものである。
 政治についてずぶの素人である私は、政治の世界のことについてコメントすることは避けたいと思い、大阪のダブル選挙については見て見ぬふりをきめこんでいたのだが、教育にも強権を発動しようとする人々が選挙戦で勝利したということを知り、知らないふりを通すことができなくなってしまい、ついつい以上のようなことを書いてしまった次第である。
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笹木 陽一

大変ご無沙汰しておりました。前回コメントさせていただいたのが震災後すぐでしたから、半年以上も連絡差し上げなかったことをお詫びいたします。

この間、先生のブログ記事を強く共感しつつ拝読しておりました。今回の大阪の件についても全くの同感で、思わずコメントせずにはいられぬ気持ちとなりました。様々に論じたいことはありますが、デリケートな論点を含みますので、ネット上に公表するのは差し控えたいと思います。

ともかく、数年来続く日本のファシズム的状況を象徴するかの様な大阪の状況が、全国に波及することのないことを強く願ってやみません。

年末で仕事が立て込んでおり、近況をお伝えする余裕がないことをお許しください。落ち着いたらメールで私信を差し上げたいと思っています。先生もくれぐれもご自愛の上、健やかにお過ごしください。ではまた。
by 笹木 陽一 (2011-12-11 17:25) 

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