SSブログ

歴史から学ぼうとしない過ち

=歴史から学ぼうとしない過ち=

 『「天下の害」とは、大国が小国を攻める、大氏族が小氏族を痛めつける、
強者が弱者をいじめる、多数が少数をないがしろにする、えせ君子が人民をご
まかす、貴族が平民をさげすむなどのことである。
 また君主が横暴であること、臣下が不忠であること、親が愛情に欠けること、
子が孝養を尽くさぬこと、これも"天下の害〟である。
 まだある。武器を手にし、毒薬を仕込み、水攻め火攻めで、手段をえらばず
殺戮しあうこと、これも"天下の害〟である。』
 
 上に書かれた一文を読んで、まるで現在私たちが目にしている“ウクライナ
で行われていること”の問題点を指摘し、断じているようだという感想を持つ
のは、私一人ではあるまい。
 この文章は、中国先秦時代の思想家、墨子の残したものである。
 その生没年などは定かではないが、墨子が活動したのは孔子よりも後、孟子
よりも前のことだと考えられている。
 そんな時代の人物が、非人道的な他国への侵攻を行い、戦闘員ではない一般
市民に対しても攻撃をしかけ、圧倒的な武力で制圧しようとする「蛮行」ある
いは「暴挙」による問題を的確に指摘しているのだ。
 驚くと同時に、人間は長い歴史の中で何度同じ過ちを繰り返せば良いのかと
慨嘆を禁じ得ない。

 周知のように墨子は、「非攻」を説いた人物である。
 人ひとりを殺した男は死刑となる。だが、百万人を殺した将軍は、かえって
英雄として絶賛をあびる。この矛盾を黙って見過ごしてよいのか。この矛盾を
成り立たせているものは何か、について考え、戦争が本質的に殺人行為である
ことを論証し、戦争こそが最大の不義であることを力説し、論じるだけではな
く東奔西走し各国に働きかけたのだと言われている。

 戦争は避けるべきだ、と説いたのは墨子だけではない。「兵法」でおなじみ
の孫子も基本的に「戦わないことが最善」と説いている。
 『孫子曰わく、兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり。
  察せざるべからざるなり。』(孫子はいう。戦争とは国家の大事である。
人々の生死がかかる場であり、国の存亡にかかわる手段であるから、よくよく
熟慮しなければならない。)

 仮に武力で相手に勝利し、征服したとしても将来に禍根を残すことになる。
 だから、戦いは極力避けるべきであり、外交交渉などに知惠の限りを尽くし、
協議を推し進め、衝突を避けることこそ「最善なのだ」という考えをベースに
「兵法」を論じていたことがわかる。
 
 今般のロシアによるウクライナ侵攻では、プーチン大統領が当初から『ウク
ライナにいるネオナチによる、かつてのソ連の同胞を守る』ための侵攻だと主
張しているが、ロシア軍の振る舞いを見ていると、「どちらがナチか」と首を
かしげざるを得ない。“同胞を守る”ために“同胞に銃口を向け”ること、ネ
オナチとは到底思えない一般市民(しかも老若男女を問わず)を殺害し、あろ
うことか学校や病院までも標的にした爆撃をするなどという見境のない、そし
て見当違いな戦略や戦闘ぶりを見て、全世界の人々が納得するはずも、できよ
うはずもあるまい。

 この侵攻が始まった当初から、プーチン大統領が前時代の亡霊(ヒトラーや
スターリン)の蘇った姿であるかのようにしか見えないのだが、それは彼がめ
ざそうとしている(であろう)ことがかつて独裁者として君臨した彼らの行動
原理と重なって見えるからであろう。
 度重なるプロパガンダで国民の目を“真実”からそらせ、不都合な情報は報
道規制をかけて目につかないようにし、返す刀で相手国に“非がある”かのよ
うに装うと同時に、宰相である自分が「国と国民を守護」しているのだと喧伝
するという古典的な手法で自らの権力体制を維持し、自らの意に添わない者は
排除するという生きる者の権利を度外視して扱おうとする前時代的な姿勢から
は、現代にふさわしい国の指導者のそれとはとてものこと思えるものではない。
 考えてみれば、プーチン大統領は諜報機関の出身で、「探知」「謀略」「人心
操作」に優れた人物なのだろうと想像がつく。そして、一方ではその「謀略」
の為ならば、他人の生命を奪うことにも何の痛痒も感じないという冷酷な人物
なのだろうという想像もつく。

 ウクライナはかつてソ連邦の一員だったとは言え、今は独立した民主国家で
ある。どんな理由があろうとも、他国が内政干渉をするなどということがあっ
てはならないし、軍隊を侵攻させ武力を背景に一方的に国の在り方を変えさせ
ようとすることなどしてはいけないことだ。ましてロシアは国連の常任理事国
でもある。自らが首謀者となって国際秩序を混乱させるなどもってのほかの事
ではないか。
 このようなことでは、以降ロシアを信頼できる国家であると認める人は少な
くなるであろうし、プーチン氏も悪いモデルとして歴史に名を残すことになる
のではないだろうか。

=この稿続く=

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:学校

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。