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ハンバーガーなんて

 ハンバーガーを食した。避けられない用事が、それも午前中の早い時間から東京にあり、早朝に家を出なければならず、朝食を家で摂っている時間がなかった。
 やむなく到着した駅で遅めの朝食を摂ることにした。駅の建物の中にファストフード店があったので、気は進まなかったがその店に入った。店に入るとすぐに、朝だというのに元気すぎるほどの声で、『いらっしゃいませ、おはようございます』と挨拶をされる。
 そんなに広くない店内なので、そんなに大声で言わなくてもと思うほどの明るい声にちょっとどぎまぎ。そのどぎまぎに追い打ちをかけるように、『ご注文は』といきなりの質問をあびせかけられた。何があって何がおいしいのかわからないのに、そんな即座に答えられるわけがないだろうと、さらにどぎまぎしてしまった。見るとカウンターのところに写真入りのメニューがある。そのメニューを目で追ってみても、正体がさっぱりつかめない。

 何となく正体がわかりそうなのは「テリヤキ・チキンバーガー」だけ。
 テリヤキとは、きっと照り焼きのことなのだろう。鶏肉だし、朝から食べてもそれほど負担にはならないだろうと判断し、(正体さえわかれば、そこからの判断は早いのだ。決して優柔不断なために注文に時間がかかっているわけではないのだ、カウンターの中でうすら笑いをして「おじさんはしようがないなあ」と蔑んだような目で見ているお兄ちゃん)
 『それではコーヒーとテリヤキバーガーを』と無事に注文を伝えることができた。
 すると、『お召し上がりで?』と妙なことを訊く。召し上がりたいから注文してるのに、どうしてそんなことを訊かれなきゃならないのか、と不思議に思ったので思わず『えっ?』と訊き返してしまった。
 すると面倒くさそうにまた『お召し上がりで?』と先ほどと同じ質問を繰り返す。二度聞けば十分だ。さっきの質問は聞き違いではなかったことがこれではっきりした。やはり食べるかどうか尋ねられているようだ。聞き違いでないことはわかったが、なぜそんなことを尋ねるのかという疑問はまだ残る。しかし、私は直感した。朝とはいえ、頭が冴えていることは時々あるのだ。これは、ひょっとすると“ここで食べるのか、それとも持ち帰って食べるのか。”ということを尋ねているのだなと判断した。それなら『ここでお召し上がりになりますか?』と訊くべきではないかと思ったのだが、人格高潔な私は彼の舌足らずの表現を指摘するなどというはしたないまねをせず、おとならしい対応で『はい』とだけ答えた。

 無事注文と支払いを済ませ、空いている席に座って待っていると、ややしばらくして注文したコーヒーとテリヤキバーガーがトレイに載せられて運ばれてきた。
 それにしてもこんな食べにくい食べ物をよく考えたものである。何よりも分厚い。しかも不安定だ。 袋の中に入っているそれを袋の入り口近くまで持ってきて、慎重にパンを食べるのに邪魔にならないよう袋の入り口付近を折り曲げる。折り曲げている間にも、分厚いパンとパンに挟んであるレタスやチキンが脇にはみ出しそうである。艱難辛苦の末にどうやらパンを一口囓れるほどの準備が整い、いざ食べようとしたがあまりの厚さで口に入りきらない。それでも思い切ってがぶりと噛みついてみた。ちょっと待て。口のまわりにソースがついてしまうではないか。しかも口の中に袋の紙が入ってしまう。紙なんか食べたくはないのだ。もっとこの紙を折りたたんでおかなければならそうだと思い、しっかりパンを左手で持って紙を折り込もうとすると、不安定なレタスとチキンがずれてパンの外側にはみだしてしまいそうだ。力加減がむずかしい。
 何とか二口目を食べる準備が整ったところでがぶりと噛みつくと、レタスとチキンを挟んでいるパンの上のパンの一部とレタスだけが口の中に入ってきた。噛み切ったはずのチキンは、まだしっかりと左手がおさえていた。こぼさないように、形を崩さないようにと気を遣う余り力が入りすぎていたようだ。
 これではいけないと思い、ちょっと力を緩めると途端にパンにはさまった分厚いレタスとチキンが下にずり落ち、紙袋の底に雪崩のように崩れていってしまいそうだ。
崩さないように、袋を食べてしまわないように、口の周りにソースがついてしまわないようにと用心をしながら食べるのだが、それでもこの分厚さだから大口を開けねばならず、
 疲れることこの上ない。気持ちを楽にし、平安を取り戻すためには、一刻も早くこの憎々しい食べ物を始末してしまわなければならない。

 袋の上からパンをおさえている両の手は疲れる(何と言っても力の加減がむずかしいのだ)し、食べるときになぜあんなに大口を開けて頑張らなければならないのか、と思えるほどに憎々しいのだ。しかも、どんなに大きく口を開けてもべったりと添えられたソースは口のまわりだけではなく、袋の入り口付近にもついてしまう。そこに口を寄せていかなければ目的のパンは食べられないのだから、ソースを口のまわりや鼻の付近、頬につけることなく食べるのは至難の業で、ついイライラしてしまう。平穏な気持ちを取り戻し、落ち着くためには一刻も早く、このパンを食べ終えてしまうに限る。

 せかされるような思いで、次から次へとほおばり呑み込み全部のパンを食べ終えるのに、5分もかからなかった。何という食べ物だ。悪魔が考えたとしか思えないではないか。
 食事はゆっくり時間をかけてリラックスした気分で楽しみながらするものではないか。
 こんなに慌ただしく戦うような気分でせきこんで食べなければならないからファストフードと名付けられているのだろう。ああ疲れた。


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