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チンパンジーも協和音が好き

 先日のこと、新聞を読んでいて、『赤ちゃんチンパンジーも協和音の音楽が好き』という記事を見つけた。
 以下、その記事の引用である。
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   チンパンジーの赤ちゃんは、人間の赤ちゃんと同じように不協和音より協和音の音楽
   が好きなことを、九州大(福岡市)の橋彌(はしや)和秀准教授(比較発達心理学)ら
   の研究グループが確認した。
   生後まもなくの動物が協和音を好む傾向を実証的に確認したのは初めてという。
   24日付の日本の英文学術誌「プリマーテス」電子版に発表する。
   橋彌准教授らは、生後5か月のチンパンジー1頭を使い、ベッドに寝かせた状態でピ
   アノやマンドリンで演奏した曲を流した。
   その際、チンパンジーが手首につないだひもを引っ張ると、今聞いている曲を聞き続
   けることができる仕組み。
   曲は、ひもを引っ張らないと協和音と不協和音が14秒ごとに切り替わる。
   実験は週1回で計6回行った。
   譜面どおりに演奏した協和音の平均再生時間は約25秒だったのに対し、不協和音で
   は約16秒だった。最長で2分連続して協和音の曲を聞いたこともあったという。
   こうした実験は、大人のチンパンジーではまだ行われていないという。
   橋彌准教授は「音楽の好みは人間特有のものではないことがわかった。
   音楽の起源を議論する上でも貴重なデータだ」と話している。  
         (2009/07/24 読売新聞)
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 人間が音楽を聴いて「快の感情」を得られる理由については、これまでの研究でほぼ解明されている。簡単に言ってしまうと、音楽を聴いた際、大脳のどの領域がどのように反応するかということと関係しているようなのだが・・・。

 人間の大脳を構成している最も内側の原始脳は、人間が人間として進化する以前の動物としての生存の基本的な機能を担当している、と言われている。たとえば間脳は、漠然とした快感・不快感や恐怖、悲痛感のような未分化の情動を担当していると言われ、いわば生命活動の重要な部分を担っている、とされている。
 また古い脳(大脳辺縁系)は、人間が子孫を残して存続してゆく上で極めて重要な働きをしており、生命の大原則にとって好ましいものか好ましくないものかを判断するという機能を持っているのだという。
 この領域が反応し、好ましいと判断したときには快の情動を発生し、好ましくないと判断したときには不快の情動を発生するというのだ。
 さらにその外側には、ヒトやサルなど、霊長類では特に発達している新哺乳類脳、すなわち大脳新皮質がある。新哺乳類脳では、客観的な分析や抽象化、未来の予測などができ、 感情やコミュニケーション、自己実現など「第三次欲求」と呼ばれる欲求を司る機能を持っているのだということなどが、定説となっている。

 ここで着目したいのは、生命体にとって好ましいものかそうでないかを判断する大脳辺縁系だ。自分の状態がどうなっているのかの自覚を持ち、情動を表すことがらを司り、食べる、眠る、異性を求める、などの欲求が満たされない時に感じる怒りや恐れ・不快や不安などや、欲求が満たされた時に感じる快感や喜び、安心感などを支配するのが、この大脳辺縁系なのだ。
 しかも、生命体にとって重要な役割をするこの部位には、自覚的意思の力は到達することができない、すなわち意識の下にあるものだと言われており、好ましいものに接したときには意志の力とは無関係に快感を感じるように遺伝的にプログラムされているようなのである。

 どうやら、音楽に接すると人間の脳は原初的に快を感じるようにプログラムされているようであるし、音楽はA10と呼ばれる神経を刺激し、そこからドーパミンやβエンドルフィンなどの快感物質が分泌されることで喜びや安心感を得られるように仕組まれているらしいのだ。
 そう考えると、音楽を好む傾向(=音楽で快を感じる傾向)は、ほとんど本能的なもので、理屈の入り込む隙間がないところから発しているもののようなのだ。
 音楽を聴いたり歌ったりして、昔の記憶を突然取り戻したり、和太鼓の響きを間近で聴いて一時的ではあれ積極性を取り戻したりするといったお年寄りがいることを聞くと、音楽の持つ力、人間のこころの奥底に働きかける音楽の不思議な力を改めて認識させられるが、それも人間の脳(こころ)に組み込まれた本能的な働きに依るものなのであろう。

 それゆえ、チンパンジーが協和音を好むらしいということも、人間の論理的な思考や理性的な判断を司る新皮質の内側にある原始脳や大脳辺縁系とのかかわりで見ると、納得がいく。すなわち、進化の過程で枝分かれしたとは言え、人間もチンパンジーも原始脳や旧皮質は共通のものを持っていて、同じような反応を見せるからだと理解できるのだ。
 しかも、不協和音は音と音がぶつかり合うために、「テンションの高い和音」と呼ばれるように緊張を感じさせるものであり、快の感情を引き起こすものではない。一方、協和音は「安堵感や安定感」「好ましさ」と言った快の感情に結びつくものであるから、人間もチンパンジーも無意識のうちに、脳の奥深いところで同様の反応をしているに違いないと納得させられるのである。

 そんなことを考えていたら、別のことに思い至った。
 テンションの高い、すなわち緊張を感じさせる音は、「不快な音」「危ない音」「苦痛を予測させる音」など、身の安全を脅かされる恐れを感じさせることから、脳が負の反応を示し危険に対して身構えるための緊張をもたらすのだと思われる。
 人間は危険を察知すると、手のひらに汗をかくことが知られている。
 この「手にひらに汗」というのも、人間が人間として進化する前に獲得した反応であることも周知の事実である。身の危険を察知して逃げようとする時、サルであった私たちは枝から枝へと飛び移って危険から身を遠ざけようとしたはずだ。その時、飛び移ろうとした枝を掴み損なわないよう、そしてしっかり枝をつかむことができるよう、手のひらが強い摩擦力を得られるように、汗をかいたと言われている。その名残が人間に進化しても残っており、今でも緊張すると汗をかくのだ言われている。
 さらに、危険を察知した時に限らず、さまざまな緊張場面で汗をかくという経験を私たちはよくしている。
 運転をしていて緊張したり、人前で話をする際に緊張したり、といった強い緊張場面ばかりか、歌を歌っていてクレッシェンドやデクレッシェンドしようと思ったりする、いわば注意を払わなければならない行動を起こす際にも緊張が起こり、手のひらに汗をかくといったことは常日頃から経験しているはずだ。

 これを電子キーボードのコントローラーとして生かせないかと考えたのである。
 電子キーボードに発汗センサーを装着したタッチパネルを接続し、そこに乗せた手のひらの汗のかき具合でベロシティーを操作できれば、ブレスコントローラーやタッチセンス以上の緻密で自然な音量操作が可能になると考えたのである。何と言っても、手のひらの発汗は、大脳の反応と直接結びついているのだ。
ブレスコントローラーにしろタッチセンスにしろ、エクスプレッション・ペダルにしろ、それらは間接制御で「コントロールするための振る舞い」を身につけなければならない。
 しかし、発汗センサーが感知してくれるのであれば、それはいわば「念力」を直接、キーボードに伝えてくれることになるので、コントロールするための技術を磨く必要はなくなる。演奏者はただ思えばよいのだ。『ここから徐々に強く』とか『この音は特に弱く』とか思いをこめて演奏するだけで、その意志が手のひらに伝わり思い通りにダイナミクスを表現できるのである。こんな自然なことはない。歌うように思いをこめて演奏すればよいのだ。
 そのような発汗センサー、すなわち微細な発汗の様子を瞬時に感知するセンサーと、そのパラメータを楽器にリアルタイムで超高速で伝えるインターフェイスが開発されれば、の話である。ここだけの夢物語である。
 しかし、いずれ大脳の血流や電流の微細な動きや違いを頭に取り付けたセンサーが読み取り、思う・考えるだけでダイナミクスが表現できるような制御技術は開発されるかも知れない。
何と言っても、実験段階であるとは言え、自動車の運転操作がヘッドギアに装着したセンサーからの信号だけでできるようになっているのだ。運転手はハンドル操作やペダルの操作でではなく、「すべきことを考える」「こうしたいと思う」だけで、車に自分の意志を伝え、発進や加速、右折や左折などを行うことができるようになったのだ。
同様にキーボードに『こう表現したい』という思いを伝えることなど、もう手の届くところに来ているのではないだろうか。
 そう考えると、発汗センサーによる制御だって全くの夢物語とは言えないかも知れないのだ。どちらが早く開発されるだろうか。あるいはそれ以上に自然に動作するマンマシーン・インターフェイスが開発されるかも知れない。
 いずれにしても、間接制御で人間の「うたごころ」を表現するといった手法は、万人向けではない。誰にでも音楽的な表現の可能性の門戸を開くためには、間接制御によらない、人間にとって無理のない自然な「思いを直接キーボードに伝えることのできる制御手段」が開発されることが望まれる。
 チンパンジーと協和音の話から、大きく道がそれてしまった。


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