SSブログ

「群れる」について考える

 このところ、“群れる”ということについて考えている。日本人はなぜこうも“群れたがる”のか、ということについてである。おいしいと評判がたつとその店の前には長い行列ができるということも、そうした傾向のなせる技のように思われるし、ある小説がベストセラーになったと報道されると懸命にそれを買いに走るのも“群れる”志向の現れではないか。また、議員選挙などでマスコミがある候補者を取り上げると、それに操られるように、一斉に雪崩を打ったように支持率が高まる、といった現象も同根だろうと思われるが、なぜそんなに“群れる”方向に気持ちが傾くのか、ということについて多少いぶかしい思いで眺めているのである。

 ほんの想像でしかないのだが、この“群れ(ムレ)”が語源となって“村(ムラ)”という言葉が生じたのではないかと私は考えている。日本ではことに、多人数で協力し合うことが不可欠な「稲作」を文化の基盤とするだけに、互いに協力し合う、心を一つにする、みんなで同じ考えを持つ、同じようにするという“ムレの意識”が重視され、“村意識”をコアの部分に形成してきたのではないかと勝手に推測しているのだ。
 そこでは、他と同じにしていれば間違いがない、安心だという心情が醸成されたはずで、そうした心情が底流にあって“ムレる”ことに積極的になるのだろうと思っている。

 そうした国民性は好ましい側面ばかりではなく、時として国を危うくする側面があるということについては誰もが感じているはずだ。
 先の大戦時でも大東亜共栄圏などというアジア諸国にとってはすこぶる迷惑な「大義」を掲げた軍部の『戦争へ』と声高に主張する声に、『何か良いことが起きそうだ』と同調してしまった挙げ句、無謀な戦争を引き起こしかけがえのない多くの犠牲を生んでしまったことなどはその典型である。
 卑近な例で言えば、「みんな同じに」という意識が強く働きすぎた結果、異なる考えを持つ人間を無視し阻害し、時として残酷な仕打ちをしてしまう“村八分”なども起きやすくなる。
 好ましい風土であることに違いはないが、そのような恐ろしい側面を“群れ”は持っているということに十分配慮する必要があると私は警戒している。

 流行に流されない。自分の目で判断する。自分の価値観に自信を持つ(しかも独善に陥らずに)、などといった「個の確立」と個々の相違を認め、受容することが社会を形作る基盤にあるということに対する認識を深めることが、“ムレる”ことの負の側面を軽くするはずだ。
 そこでは、誰もが深い見識を持ち、モノゴトを見る目が確かで見極める構えを持ち、瑞々しい感性で常に「よさ」を探求し続けようとしており、デマや過激な論調に流されず、マスメディアの報ずることを鵜呑みにせず賢明な対応をしようとしている、といった成熟した市民の姿を見ることが出来るであろう。
 マスメディアはかつての大戦の折、「連戦連勝」という虚偽の内容を報じ、国民を欺いた歴史を持っているのだ。そのマスメディアに踊らされ操られて痛い思いをしたことのある日本人であるからこそ、“ムレる”ことへの警戒心をもって、世の中の動きを見極めた方が良いと思うのだ。

 かつて閉塞感に苛まされていたドイツ国民が、強い指導力をもって国民に期待を抱かせたヒトラーの出現を許してしまったことは子どもでも知っている。たくみな演説によって血統的に優秀なドイツ民族が世界を支配する運命を持つと吹聴して国民を引きつけ、血統を汚すとされたユダヤ人を迫害などの政策を行ったこと。さらに民族を養うためとして、領土回復とさらなる拡張を主張し、第二次世界大戦を引き起こしたといったことも人類の歴における悲しむべき出来事である。
 私は、そうした状況と現在の日本で起きていることがあまりにも似ていることを懸念している。

 閉塞感が「強い指導者」を求め、国民や市民にとって何か良いことをもたらしてくれそうな人物を推戴したい、という思いが人物を見る目を曇らせ、曇らせるばかりか一斉に“ムレてなびく”現在の状況が、かつてのドイツを彷彿とさせるからだ。
 誰もが同じ方向を向き、同じ考えを持ち、同じふるまいをしなければ許されない「独裁社会」が人間にとって望ましいものでないことは言うまでもない。
 しかし残念なことに、現在の風潮はそうした社会の出現などあろうはずがない、という油断による「強い指導者」希求の様相が見え隠れするのだ。
 “ムレてなびく”傾向が、そうした独裁社会の出現につながらないように、と願うばかりである。もうそろそろ村意識を捨て、良い意味での(協調性と個性に富んだ)「流されない確固とした市民社会」に移行しても良いのではないだろうか。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学校

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

「絆」について思う今年の言葉 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。