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出生率低下の報道に接して [学校教育]

 昨日発表された2005年の人口動態統計(厚生労働省)によると出生率が1・25と前年より0・04ポイント低下し、過去最低を更新したという。
 読売新聞の記事では、『少子化が今後も進展すれば、年金をはじめとする社会保障制度の基盤が揺らぎ、経済にも悪影響が出るのは必至で、政府は少子化対策への一層の取り組みが求められそうだ』としている。
 テレビ各局もニュース番組でこのことを取り上げ『何とかしなくては』というトーンでこのことを報道していた。
 中でもおかしかったのは、いくつかの県や市で実施されている「少子化対策」。
 中には、5人目の子どもを出産した家庭に10万円の出産祝い金を出す例や、子どもが学齢に達して小学校に入学する折に何グラムかの金のメダルを贈呈する、などといったほんの思いつきのような対策が紹介されていて気は確かかと疑いたくなるようなものもある。
 ごほうびやお金をもらえるからといって子どもを産もうと思ってもらえる、と本気で考えているのだろうか。子どもを産もうとしない理由を金銭的・物質的な困難さに因るものだと考えているから、そのような小手先の発想しか持てないのだ。少なくても数十年前の日本人は金銭的・物質的に今ほど豊かでなかったにもかかわらず、子どもを持ちたいと思い、その願いが叶って自分たちの子どもが生まれることを素直に喜べたものだ。繰り返して言うが、子育てにかかる費用を潤沢に持っていたわけでもないのに、である。
 むしろ現在の方がその当時に比べれば家庭生活は豊かであるにもかかわらず、産もうとしない、産む選択ができない、できれば産みたくない、と考えているとすれば経済的な事情が障害になっているとはとても思えない。そうした心情は何に起因するのかということを考えなければ有効な対策など生まれないであろう。
困ったことに政府も各地の行政組織も出生率が下がると「年金などの保障制度や経済に悪影響が出る」といった具合に、「自分たちが困るから」何とかしなければといったご都合主義でこの問題を論じようとしているように見受けられる。
 私たち大人の社会は、生まれてくる子どもたちのために「何がしてやれるか」を考えるべきであるのに、大人の都合のために産んでくれと言わんばかりである。
 
 現在のような日本社会で子どもを産んで、その子が幸せに育ってくれるだろうか、子どもが育って「この国に生まれてよかった」と思えるだろうか、この国で子孫を繁栄させていこうとその子たちが積極的に思えるような日本という国であり続けるだろうか、といった不安や懸念が心情の底深くにあるとしたら、一時的な金銭やご褒美につられて子どもを産もうとすることなど及びもつかない。
 私にはどうしても、その不安や懸念が現在のような出生率の低下を生む最大の要因であるとしか思えない。
 子育てはかつての社会に比べればいっそう難しくなってきている。せっかく生まれた子どもも安全な環境の中で安心して育つという保障もない。自分たちが育ってきた過去よりももっと厳しい競争社会の中で苦しい思いをさせてしまうかも知れない。親としての負担も大変そうだ。そうした思いが逡巡を生み、「子どもを産まない」心情を生じさせているように思われるのだ。
 親自身が「この国に生まれ育ってよかった」と思えなければ、子どもにその幸せを受け継がせようという気持ちなど起きそうにない。
 
 そう考えてみると、これは愛国心の教育と通じるものがある。
 愛国心を持ちなさいという教育が何の意味も持たないと同様、「この国に生まれ育ってよかった」「この国の国民でよかった」という自然に生じる心情がなければ、「我が子にも同じ幸せを」と思って子どもを産もうという気にはなれないであろう。
 長い遠回りの道であっても、まず何よりも日本という社会が国民にとって好ましい社会となることこそこの問題解決のカギであろう。
 断じて目先のそして安易な「カネとモノ」で解決できる問題ではない。
 仮に親になる覚悟もないまま、そうしたご褒美(カネとモノ)につられて子どもを産んだとしても、その子を「大切な我が子」として慈しみ、しかもときに厳しく自立への道へ誘うことのできる親になれるかどうか、疑わしいものがある。
またそのような事情で生まれ育った子どもが社会を担う自立した市民となれるかどうかも大いに疑問である。そしてそうした市民で構成される社会が「よりよい社会」となるかどうか、将来のことは不確定であるがあまり期待できそうにない。
 安易なそして思いつきのような対処療法、そして大人の都合でひねりだすような対策しか講じられないような貧弱な頭脳しか持たない政府、行政組織でないことを願うばかりである。


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